ミュージカルサークルの学生がプロの現場で「スウィング」に挑戦。
卒業生演出家と学生の座談会
俳優?クリエイター 西川 大貴さん × 社会学部 福井 由峰さん × 現代心理学部 礒 珠梨愛さん
2026/03/18
立教生のキャンパスライフ
OVERVIEW
卒業生で俳優?クリエイターの西川大貴さんが演出を務めたミュージカル『あんず?心の扉をあけて?※1』に、ミュージカルサークル「立教大学劇団志木」の福井由峰さんと礒珠梨愛さんが参加しました。2人が担った役割は、出演者に何かあった際に代演に立つ「スウィング※2」。演出家と学生、それぞれの立場から舞台について語り合いました。
※2 スウィング:特定の役が欠けた際に代演として複数の役をカバーする俳優。ブロードウェイなど海外では一般的な仕組みで、日本ではコロナ禍を契機に普及が進んでいる。
出演団体と審査員、コンテストがつないだ縁
左より、礒珠梨愛さん、福井由峰さん、西川大貴さん
※3 学生ミュージカルガチバトル:全国の学生団体が演技?歌?ダンスの総合力を競うミュージカルコンテスト。
西川 劇団志木の皆さんは、学生演劇にありがちな無理にミュージカルらしさを装う振る舞いがない点が印象的でした。自分たちの言葉で舞台に立つ姿勢が、優勝に結び付いたと思います。
福井 大会後には、西川さんが作詞や構成を手掛けたソングサイクル?ミュージカル『雨が止まない世界なら』を劇団志木のメンバーをはじめ学生ミュージカルで出会った仲間たちと共に上演し、観劇いただきました。劇団志木の卒業公演にも足を運んでくださるなど、貴重なご縁に感謝しています。
西川 忘年会にも呼んでくれて一緒に楽しみましたね(笑)。その際に、今回の舞台への参加についてお二人に話したことを覚えています。
興行を守り、作品の質を保つ「スウィング」の重要性
礒 当初は稽古場での代役を担うと思っていました。話を聞くうちにスウィングとして参加することと、その重要性について知り、緊張したのを覚えています。
礒 私はもともと教育分野に興味があり、子どもたちと一緒に取り組めることが楽しみでした。交流を重ねる中で彼らが少しずつ心を開き、話しかけてくれるようになった時はうれしかったです。
福井 稽古で圧倒されたのは役数の多さです。私は6役を担当し、それぞれの動きやセリフを再現する必要があったため、頭の切り替えに苦労しました。
ミュージカル『あんず~心の扉をあけて~』で子どもたちに演技指導を行う西川さん 写真提供:合同会社黒猫/撮影:田村良太
福井 西川さんから最初に掛けていただいた「普段とは違う『筋肉』を鍛えることになる」という言葉が印象に残っています。一つの役に深く向き合うことと、複数の役を広くカバーするアプローチとでは、役づくりに求められる姿勢が大きく異なっていました。
稽古を見守る福井さんと礒さん 写真提供:合同会社黒猫/撮影:田村良太
※4 ゲネプロ:衣装から照明、音響まで本番と同じ条件で行う最終通しリハーサル。メディアや関係者を招いて公開形式で実施する場合もある。
福井 私は全てをこなそうと気負いすぎ、自分に納得できない時期もありました。ただスウィングを務める中で舞台を俯瞰(ふかん)して捉える意識が身に付き、演者だけでなくスタッフの意図もより理解できるようになったと感じます。
西川 主体的に課題を乗り越えていくお二人の姿勢は素晴らしかったです。本番直前まで演出の変更を加える中で、その意図や状況をきちんと受け止めてくれました。内心はパニックになる瞬間もあったと思いますが(笑)、本当に頼もしかったです。
まだまだ知られていないミュージカルの魅力
ミュージカル『あんず~心の扉をあけて~』(2025年8月) 写真提供:合同会社黒猫/撮影:田村良太
西川 タイパやコスパという言葉に代表される効率性が求められる時代にあって、舞台はあえて「よく分からないもの」に出合える場所です。解釈の余地が大きく予定調和に収まらない展開や、思わぬ感情に触れる時間は、人生に豊かな気付きを与えてくれるでしょう。そんなびっくり箱を開くような経験は、舞台でなければなかなか味わえません。
クリエイターの道に進む原点となった立教時代
福井 まさに現在につながる原点ですね。大学時代はプロの舞台に立つ一方、キャンパスではどのように過ごされていたのでしょうか。
西川 自ら劇団を立ち上げ、新座キャンパスの芸術系サークルをまとめて一つの公演を行う企画に携わりました。さまざまな人を巻き込み、コラボレーションすることに面白さを感じていたのだと思います。ただ、今振り返ると自身の承認欲求で突き進み、迷惑をかけてしまった方々もおり、申し訳なさと反省の気持ちがあります。
西川 演劇をはじめ芸術に関連した知識を得られる点が進学のきっかけでした。当時は心理学にまつわる授業を多く履修し、心の動きや時間の概念といったテーマに興味を持っていました。礒さんが話す通り、今になって大学時代の学びが役作りや演出に結び付いていると感じるケースは少なくありません。また、仕事の中で立教の卒業生と現場を共にする機会もあり、そうした瞬間に母校とのつながりを実感します。
ミュージカル『ビリー?エリオット~リトル?ダンサー~』(2024年8~11月) 写真提供:ホリプロ/撮影:田中亜紀
こまつ座 第156回公演『泣き虫なまいき石川啄木』(2025年12月) 写真提供:こまつ座/撮影:宮川舞子
演劇が持つ力を社会に還元し、より良い未来を描く
西川 お二人の活躍が楽しみです。私は俳優として舞台はもちろん映像作品にも積極的に関わりたいと考えています。また、社会課題の解決において演劇が果たし得る役割にも関心があります。コロナ禍で演劇が不要不急と見なされたのは、教育分野や地域との結び付きが不十分だったことが一因だと考えています。海外では演劇を学校教育に取り入れて思考力やプレゼンテーション能力を育むケースも珍しくありません。日本でも演劇がより広く社会とつながり、その力を還元できるようにしていきたいですね。
西川さん運営Webサイト
演劇情報やゲストトークを発信するYouTubeチャンネルをはじめ、西川さんが手掛ける多彩なコンテンツを掲載しています。
西川 大貴さん NISHIKAWA Taiki
立教池袋中学校?高等学校卒業、2014年現代心理学部映像身体学科卒業。特技のタップダンスを生かし、『アニー』でデビュー後、多くの舞台に出演。脚本や演出も手掛け、YouTubeで舞台の裏側を伝えるなど多方面で活躍。
福井 由峰さん FUKUI Yumine
社会学部現代文化学科4年次。芸術社会学を専攻し、舞台を「文化装置」として捉えながら、社会や地域との関わりについて学ぶ。卒業後は大学院に進学し、研究活動に取り組みながら、演劇の可能性を探究する。
礒 珠梨愛さん ISO Julia
現代心理学部映像身体学科4年次。大学入学後に初めてミュージカルと出合い、その魅力に引き込まれる。自身の経験を踏まえて、子どもたちが演劇をより身近に触れ、成長できる機会づくりを目指している。
※本記事は季刊「立教」275号(2026年2月発行)をもとに再構成したロングバージョンです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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